中津川ひろさとの論文「日本政府による台湾への愚劣外交」

中津川ひろさとです。以下は、私が以前、人形町サロンというサイトに掲載した論文「日本政府による台湾への愚劣外交」です。主に私が2期目の時に創設した議員連盟「日本・台湾安保経済研究会」に関する内容が書かれています。ぜひお読み下さい。

 

日本政府による台湾への愚劣外交(2006.12.21)  

 

はじめに
 
 筆者と台湾との繋がりは、苦学生だった大学時代、新宿コマ劇場前の中華料理店で、同じアルバイト仲間の台湾人と知り合ったのが最初であった。当時はまだ珍しかった焼きビーフン、餡かけスープ、ジャスミン茶など、今では当たり前のように一般家庭に普及している台湾料理を食べながら、台湾と日本の将来展望を連日のように熱く語り合った。 
 
 そんなことがきっかけで、彼らとは社会人になってからも親しく付き合うようになり、その後、一民間人として日台交流活動に関わり、そして政治家になってからは、より具体的な形で日台関係構築に全力を注いできた。
 
 残念ながら平成17年秋の郵政解散総選挙で議席を失ったが、現在でも、非議員ながら民主党の議員連盟「日本・台湾安保経済研究会」の会長として、さまざまな場で対台湾政策に関する提言を続けている。
 拙稿では、そんな筆者の現職時代の活動を紹介すると共に、今後の日台間のあり方を展望したい。
 
1,「228人間の鎖」参加と中国の圧力
 
 「2.28」という数字は、台湾人、特に本省人にとって重要な意味を持つ。
1947
227日、首都である台北市内でヤミたばこを販売していた本省人(以前から台湾に住んでいた台湾人)の老女が、外省人(戦後、大陸から渡ってきた台湾人)たる国民党の密売取締員から暴行を受け、それをきっかに、翌28日、本省人の外省人への抗議行動が台湾全土に起こり、それに対し、国民党が軍隊を出動して本省人を鎮圧するという事件があった。
 この事件は俗に「2.28事件」と言われる。つまり、台湾の人々にとって228日は忘れることのできない日なのである。
 
 残念ながら日本では余り知られていない。扶桑社の「新しい歴史教科書」に若干の記述があるのみだ。
 筆者は、平成16228日から3日間、同僚の大江康弘参議院議員、山本善心時局心話会代表、大島信三「正論」編集長と共に、記念デモ「228人間の鎖」に参加するため台湾に飛んだ。
 
 「228人間の鎖」への参加は日本の国会議員としては初めてのことである。
当初、他にも6名の議員が参加する予定であったが、訪台直前に、駐日中国大使館の公使と参事らが民主党国際部を訪れ、筆者らの訪台を、机を叩いて抗議。そのため、6名の議員は訪台を断念した。
 
 しかし筆者と大江氏は、「このような中国の内政干渉には屈してはならない」として、訪台を決断したのである。
当日は約200万人が参加。台湾の北から南まで参加者全員が一斉に手をつなぎ、「TAIWAN, YES! CHINA, NO!」を合言葉に台湾の平和を訴えた。
 
 「あなたは日本のサムライだ」と言われながら熱烈な歓迎を受けた筆者は、「日本と台湾は、自由と民主の共通の価値観を持っている。日台の更なる友好親善は、日本全国民の願いである」と訴え、翌日には、李登輝前総統のご自宅に招かれ、何度も感謝の言葉を頂いた。
 
 民主化と自由化が進む台湾の、国民の熱い想いを直接感じることができた有意義な3日間であった。

2
,「日本・台湾安保経済研究会」創設の意義
 
 筆者は「228人間の鎖」参加のための台湾訪問から帰国した直後、民主党の47人の仲間と共に、「台湾の国際社会への復帰を長期的かつ全面的に支持し、日台の議員交流を通じ、東アジアの平和と安全の実現を目指す」ことを目的として「日本・台湾安保経済研究会」を発足させた。設立総会には「台湾の読売新聞」と評される「自由新報」の記者も駆け付け紙上に大きく取り上げられた他、アメリカのメディアでも報道された。
 
 そして発足から数ヵ月後の会合では、許世楷(こう・せかい)台北駐日経済文化代表處代表を招き講演会を開催し、講演後、筆者は「台湾のことは台湾の国民が決めることであり、今後、新たに憲法や国名なども決めようという動きになってきているが、私たちは台湾がそうするなら支援し支持したい。李登輝前総統の『奥の細道』を訪ねたいとする希望も実現したい」と述べた上で、幹事長の長島昭久衆議院議員の説明により、以下のような決議を満場一致で採択した。
 
 本日、日本・台湾安保経済研究会は、台湾の民主化・自由化を支持し、その更なる発展に貢献すべく、以下決議する。
 
 一、台湾の憲法、国名については台湾の民意を尊重し支持する
 一、台湾のWHOへの加盟を支持する
 一、李登輝前台湾総統の訪日を実現する
 一、台湾観光客のノービザ入国を実現する
 一、在留台湾人国籍の「台湾」への表記変更を実現する
                           平成161124
 
 この決議は、日本だけでなく台湾でも大きな反響を呼んだ。
 その結果、1215日、日本政府は李登輝前総統の来日を認め、同月末から翌年1月にかけて李前総統は名古屋、金沢、京都を訪れることができ、さらに、毎年100万人を超える訪日観光客を誇る台湾人のノービザ入国についても、愛知万博期間中に限定していた措置の恒久化が決定した。
 
 「台湾の憲法、国名については台湾の民意を尊重し支持する」、「台湾のWHOへの加盟を支持する」の2点についても、日本・台湾安保経済研究会では今後も継続して日本政府に呼び掛け、全面的にバックアップしていくつもりである。
 
 しかし問題は「在留台湾人国籍の『台湾』への表記変更を実現する」という事項である。
 
3
,理不尽な在留台湾人の「外国人登録証明書」
 
 周知の通り、法務省は、日本に在留する外国人に対し、外国人登録法の規定により、「外国人登録証明書」を分布し、その常時所持を義務付けている。そこには、その人の名前、住所、生年月日、職業などが詳細に記されており、一種の身分証明書としての役割を果たしている。
 
 ところが在留台湾人の「外国人登録証明書」は、国籍欄に「台湾」ではなく、何と「中国」と記載されており、さらに住所欄は「台湾省台北市・・・」といった表記がされているのである。
 
 この件について筆者は、平成1724日の衆議院予算委員会で、当時の町村信孝外務大臣に対し、次のように問い質した。
 
 「今、日本にいる外国人は、登録証を常に肌身離さず持ち歩いているが、このうち台湾人の登録証の国籍欄には、中国台湾省と書いてある。これはまるで『御伽の国』だ。
 
 私は日本の大学に留学している台湾人の若者に、この件について問うたら、『アパートを借りる際、不動産屋に行っても、中国人だからという理由で貸してくれない』と言っていた。
 
 それは中国人による犯罪の多発が原因にある。平成16年の外国人犯罪件数310件のうち、中国人による犯罪件数は140件で、台湾人による犯罪件数は0だ。
 
 こうした現状を見ても、やはり台湾人の登録証の国籍欄は、「中国と区別すべきではないか」
 それに対し、町村氏は、「あなたのおっしゃっているのは、中国と台湾を別の国として扱えということか。日本は、日中共同声明でそういうポジションは取っていない」と言い放った。
 
 全く的外れの答弁である。
 
 筆者は続けて「質問の意味をしっかり理解してほしい。台湾人か中国人かを区別しろと言っているのであって、国をどうしろと言っているわけじゃない。日本にいる台湾人の、日本の治安というものも考慮すべきではないかと言っているのだ。ぜひこれは検討してもらいたい」と強く要請した。
 
 言うまでもなく台湾は、過去一度たりとも中国の統治を受けたことがない。中国が幾ら自国の一部であると主張しても、それが虚構であることは明白である。
 
 さらに、日本においては、日中共同声明の中で「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本政府は、この中華人民共和国の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」(3)とし、同文の後段において、日本は、台湾が中国の一部であることを「理解」、「尊重」はするが、「承認」はしていないのである。
 
 近年、日本では、麻薬、強盗、殺人など在日外国人の凶悪犯罪が多発しているが、そのうち中国人よるものが全体の40%近くを占めている。
 
 そのため、在日台湾人は、「外国人登録証明書」の国籍欄が「中国」と記載されているがために、中国人と同一視され、誤解と困惑に悩まされて、精神的苦痛を強いられている。
 
 外国人登録証明書だけではない。運転免許証などの公的証明書の国籍は全て「中国」となっているのである。
 これは、台湾人にとって耐え難い屈辱であり、日本政府の台湾人への卑劣な暴挙であると言わざるを得ない。
 
4
,外交文書における台湾への冷たい扱い
 
 同じように、日本政府の台湾に対する理不尽な対応として挙げられるのが、「陳水扁『総統』」といったように、総統の部分をわざわざカギ括弧を付けて書かれる日本政府の外交文書である。
 
 筆者は前述の「228人間の鎖」参加の直前の衆議院予算委員会で、日本政府が平成15年末、財団法人交流協会台北事務所を通じて邱義仁総統府秘書長に手渡した文書中に「陳水扁『総統』」と括弧付きで書かれたことについて指摘した。
 
 これに対し、当時の川口順子外務大臣は、「わが国の台湾に対する基本的な立場というのは、日中共同声明に従って台湾との関係は非政府間の実務的な関係として取り扱っていくということである。台湾を国として扱ったり、その当局を政府として扱ったりすることはない。したがって、わが国の政府の基本的な関連文書における関連表記は、わが国の基本的な立場を踏まえてやっているということであり、そのこと踏まえて、『外交青書』など、わが国の政府の立場を正式に示す文書では、わが国が台湾を『国として扱っている』という誤解を招かないために必要に応じてカギ括弧をつけて表記をしているということである」と述べた。
 
 カギ括弧というのは、「いわゆる」とか「自称」という意味を表す。又、筆者の調査によると、日本以外の国で台湾の総統をカギ括弧付きで呼んでいるのは中国だけであることもわかった。しかも同じ国交のない北朝鮮の金正日総書記にはカギ括弧は付けられていない。なぜ台湾の総統だけがカギ括弧を付けられるのか。これは極めて無礼千万な扱いである。

おわりに
 
 言うまでもなく台湾は、他国に類を見ないほどの親日的な国であり、1972年の日中国交正常化に伴う日華断交の時と比較し、日本と台湾との関係は今、遥かに密接なものとなっている。日台間の人的往来、貿易及び価値観の上も最良のパートナーであり、安全保障上、日本にとって生命線である。
 
 日本が今後も「大国(中国)に媚び、小国(台湾)を挫く」という愚劣外交を続けるのであれば、台湾の日本に対する不信感は徐々に強まっていくであろう。台湾が親日的であり続けるか否かは全て日本の対応で決まるのである。